当事者の須田セツ子医師の著書
時系列で見たときの事件の経過
世間に流布している情報と真実との食い違いがある。
須田セツ子医師は、人工呼吸器を停止させたのではなくて、自発呼吸がある患者の挿管チューブを引き抜いたのである。その上で、鎮静薬(セルシン、ドルミカム)、筋弛緩薬(ミオブロック)を注射したという。
焦点となったのは、筋弛緩薬(ミオブロック)の投与方法である。
E看護師の記録のように、ミオブロック3アンプルをワンショット(IV)で入れたら、呼吸筋停止で即死である。しかし、須田医師の記憶と記録では、1アンプルを点滴に混ぜて緩速投与(DIV)となっている。
裁判所がE看護師の記録を採用して、須田医師の記録を虚偽だと認定したことが、有罪か無罪かの分水嶺になった。
須田医師に言わせるなら、緩速投与ならば、呼吸は停止せず、表情筋や骨格筋の緊張が解けるだけのはずである。
末期呼吸不全で患者が苦しむ場合、セルシンやドルミカムなどで、鎮静させるということは、確かにある。しかし、筋弛緩薬ミオブロックを使うとはあまり聞いたことがない。須田医師ですら、セルシン、ドルミカムが十分効かなくて、あわてて相談した同僚のC医師に教えられて使ったのだ。
この事件以来、呼吸管理でたいへん不自由が生じている。
人工呼吸器を使うときに、
「いったん使うと、自発呼吸が再開しない場合はずっと使い続けることになりますが、いいですか?」
と言わねばならない。
かつては、いったん人工呼吸器で救命され、自発呼吸が戻って、人工呼吸器から離脱していた患者が、人工呼吸器を装着されず、呼吸不全で死んでいると思う。