メガネを外したらスーパーマン「特命係長只野仁」

特命係長只野仁 1

特命係長只野仁 1

 

映画にドラマにメディア展開され、私も名前だけは知っていたヒット作だ。著者は柳沢きみお。デビュー以来49年(!)にもなるベテラン漫画家で、代表作は「翔んだカップル」。私は元投手が38歳でプロ野球にカムバックする物語「男の自画像」が好きだった。

そのベテラン漫画家が出したヒット作だから、さぞやおもしろいだろうと思って読んでみたら、決してそうではなかった。

只野仁(ただのひとし)は大手広告代理店・電王堂(でんおうどう)の総務二課係長で、これといって取り柄のない平凡社員である。しかし、それは表の顔であり、その実態は、会長の懐刀として、会長にとって都合の悪い人物を陥れたり、電王堂を恐喝する総会屋やヤクザを排除する、知力体力ともに傑出したスーパーマンである。

サラリーマンの夢を即物的に書いた「課長島耕作」をもっとわかりやすく単純にして、誰でも50ページでスカッと息抜きができるようにした作品と考えると理解しやすい。

島耕作のように、新しい任務を与えられて窮地に陥っても、偶然知り合った女に助けられるというようなラッキーマンではなくて、自前の知力体力人脈を駆使して難局を乗り切るところは格好いいと言えるが、およそ現実性がない。

メガネを外したらスーパーマンという部分はわかりやすい。

90年代に描かれたマンガなのに、大して古臭くないのは、具体的な仕事の内容が全く出てこないからである。一日中、社内政治と女漁りばかりやっている。こんな会社は一ヶ月も持たないと思う。

幼稚でプアだからダメかというとそうでもない。内容が貧しいからこそ、読みやすいとも言える。誰もが、電車の中で、国際資本の壮大な世界戦略や難事件の推理を読みたいわけではない。単純なポルノで十分なのである。