手塚治虫「ブラックジャック」において、私がもっとも好きな話です。
往年の名女優スワンソンも、引退して年老いた今は、ただの金持ちの老女として、ビバリーヒルズの大邸宅で寂しく暮らしていた。
ところが、昔の出演映画がテレビでリバイバル放映され、スワンソンの人気も盛り返してきたので、その名声を利用して、彼女を新作映画に出演させて、映画に箔付けをしようと考えた映画会社が出演のオファーをしてきた。
スワンソンは出演したかったが、この姿では恥ずかしくて出られない。
彼女は全財産を処分し、500万ドルを持って、ブラックジャックに美容整形を頼む。
当初は、ブラックジャックは、
「皮膚を張り替えて骨格を矯正したって、生理機能が衰えてるからせいぜい1年しか保たない」
といって断ったのだが、自殺未遂までして手術台に登ろうとするスワンソンに、ブラックジャックは根負けして、引き受ける。
大手術の末に、かつての美貌を取り戻したスワンソンは、映画出演の直前になって、交通事故で死んでしまう。駆けつけたブラックジャックには、彼女の遺言が、録音テープで残された。
「先生、私、死んでも映画に出たいんです」
ブラックジャックは、死体をエンバーミング(はく製のようなもの)処置して、ただ立っているだけの役で、彼女を映画に出演させてやる。それが、この最後のコマだ。