夏休みの宿題における母との葛藤

夏休みの宿題で、もっとも憂鬱だったのは、「自由研究」だった。

ほとんど何の指導も例示もなくて、工作物とか絵画とかを提出させられた。

私が目端の利く子供だったら、図書館で、夏休みの自由研究テーマ関連本を探して読み、少しだけ変えて提出していただろう。今で言うところの「コピペレポート」である。

そんな知恵がなかったから、自分で考えて、やっていた。

1.「理科実験セット」アルコールランプ、ルーペ、温度計、ピンセットなどを揃えて箱に入れてみた。

「これは何かを作ったのではなくて、集めて並べただけでしょう」 「じゃあ、どうしたらいいの?」 「あなた(父親)、ちょっときて、手伝ってやってよ。他の家ではお父さんが手伝うんだよ。この子じゃ何も作れないよ」

母は自分では持て余すようなことがあると、父を呼んでくるのだが、父はめんどうくさくて何もしないのである。これが夫婦喧嘩の原因になって、聞いている自分は耐えられなかった。

2.「静物画」擦り切れたゴム長靴の絵。鉛筆と水彩で描いた。

「夏休みの宿題なんだから、長靴なんかじゃなくて、別のものを描いたら?」「それじゃ何を描けばいいの?」

3.「ヘチマの栽培と観察」ツルが伸びて、葉が増えて、花が咲いて、実がなることを、なんの工夫もなく、文章で書いた。あまりにも伸びてはびこったので、庭を管理していた祖母が嫌がって、鉢に植え替えてしまったが、それで一気に成長が止まり、枯れてしまった。とても悲しかった(これもレポートに書いた)。

「自由研究ってのは、こういうのじゃなくて(うまく説明できない)」 「見た目だけじゃなくて、味や臭いも描けってこと?」 「そうじゃない!」

今になって思うと、母は、自分に、いかにも子供らしい自由研究(木工による工作、風景画、絵による緻密な観察日記)をやってほしかったのだろうが、それを例示できなかった。なぜなら、母も、参考書を買ってきて、それを見せて「似たようなものをやれ」と教えるだけの知恵がなかったからだ。