つげ義春という、少しマニアックな漫画家には、「無能の人」という私小説めいた作品がある。
食いつめた売れない漫画家が、河原の石を拾ってバラック小屋に展示して、石を売ろうという話だ。
奇妙な石を愛好する趣味は存在するので、やり方次第では売れないわけもないだろうが、主人公「私」の売る石は、河原で集めた、特におもしろくもない石ばかりだったから、ちっとも売れない。
石を売り買いするオークションもあるが、石を運ぶ手間ばかりかかって、石は売れない。
しかし、私たちは「石屋」を笑えるだろうか?
貴金属、宝石、Bitcoin。
これらは希少価値があるというだけで、実用的な価値はまったくない。しかし、値段がついて、資産保全手段になると思われている。
政府が発行する銀行券も、何かそれ自体に価値があるのではない。広く流通していて、みんなが価値があると思っているから価値がある。循環論法だから、正しさは証明できない。
つげ義春は、石屋は実際にはやらなかったらしい。