我が青春のビデオデッキ βHi-Fiとハイバンド化

マニアが好んだベータマックスには、VHSに対して負けている点がいくつかあった。

記録時間の不利を挽回するため、標準速 βI のテープ送り速度を半分に落とした βII モードは、固定ヘッド記録の音声トラックの信号特性が悪化し、聞くに堪えないものになった。

最初は、信号処理でSN比をあげようとして、カセットテープで採用されていたドルビー技術をビデオ音声処理に使っていたが、各社の足並みがそろわず、互換性がなかったので、普及しなかった。

抜本的対策として、Hi-Fiと呼ばれる改良が行われた。映像信号記録領域に、音声信号を重ねて記録してしまうのである。

β Hi-Fi である。

まともにこれをやったら、映像と音声との信号が混線し(クロストーク)、見るに耐えなくなるのだが、ソニーの技術者たちは、

映像記録帯域と音声記録帯域とを周波数で分割し、ガードバンドを設ける

という工夫で、クロストークを防ぐことに成功した。

とはいえ、映像信号帯域が削られてしまった分、映像品質が劣化したことは紛れもなく、ユーザーには不評だった。

HF900の前の機種HF300では400kHzほど映像信号帯域を高周波数側に移動させるということが行われた(隠れハイバンド)。これをさらに推し進め、原規格よりも800kHzの高周波数化を行ったのが、HF900が売り物としたハイバンドである。

ソニーは、以降に発売するベータマックスをすべて「ハイバンドベータ」と呼称し、正式規格とした。

まとめると、

記録長時間化 → 音声品質の悪化 → β Hi-Fi → 映像品質の悪化 → ハイバンドベータ

となる。泥縄式改良とはこのことである。

次回は、VHS側が、音声品質と映像品質の改良をいかにして両立させたかを見てみよう。(つづく)