架空戦記小説は、90年代に爆発的に流行した。
ウォーシミュレーションゲームのノベライズから派生した小説群だ。
前大戦でボロ負けしたことのルサンチマンを発散するのに、この手の小説は最適だった。
ブーム初期から現在まで、架空戦記小説を書き続けている長寿作家、横山信義は、最初の長編シリーズ「八八艦隊物語」において、つぎの仮定を設けた。
もしも、第二次大戦で空母機動部隊が創設されず、第一次大戦当時のように、戦艦を主戦力とする艦隊どうしの決戦で、戦争の勝敗が決せられるとしたら、日本海軍は米海軍に勝利できるのではないか?
これを言っていたのは、黛治夫元海軍大佐だった。
黛説とは、
米海軍の演習結果から推測すると、日本戦艦の命中率は米戦艦の3倍である。 だから、戦艦戦力は軍縮条約で対米6割で6対10だけれど、実際は18対10くらいの戦力比になる
という、それ自体怪しい話なのだが、まあ、これが正しいとしましょう。
横山信義氏は、シミュレーション小説の形で、黛説に対して、
日本軍の光学照準の命中率が米軍の3倍でも、米軍はより多くの戦艦と主砲を準備すればいいし、射撃速度が速く、かつ、高性能レーダーや電子計算機を使って命中率を改善できる。
と反論した。
小説において、日本海軍は史実よりは善戦するが、結局は、ボロ負けして無条件降伏する。黛説は全面否定されている。
米国とは国力に圧倒的な差があり、技術的にも劣り、戦略的にも拙劣だった日本は、全面戦争をすれば、最後は敗戦するしかない。
しかし、「八八艦隊物語」は、単純な日米線の勝敗問題以外にも、以下の見どころがある。