母の話を続けてみたい。
母は経営不振のために、ついに家業を放り出した。担当していた仕事は外部から雇った人に任せて、自分は専業主婦(無職)となったのである。
ところが、これが母は気に入らなかったらしい。
勤務時間の半分ぐらいは、寝ながらワイドショーを見ていても、かつて働いていた自分は尊いのであり、現在の退職した自分は卑しいと思っていたようだ。
その後、母は、周囲の
「働いていない」「遊んでいる」「怠けている」
という言葉に極端に反応するようになった。
生活に困っているわけではないのだ。祖父や父の事業のおかげで、死ぬまで生活に困ることはない。しかし、そこに自分の貢献がまったくないことが、気に食わないのである。
「無職」「専業主婦」という立場を受け入れない母が考え出した妄想は、
「私は病気だ」
という話である。
体が痛くても、近所の診療所で、特に大した治療もされなかったことが気に食わなかったらしく、周囲に騒ぎ立て、結局、めんどうみのいい娘の旦那が、自家用車で遠方の大病院まで送迎したら満足したようである。受けている治療は、近医と何ら変わらないようであるが。
「引退して自由気ままに暮らしている70歳主婦」
という実態を、今も受け入れることができないようだ。