異状死って何なのか?

医師法第21条問題が何十年も揉めている原因は、「異状」の定義が確定しないからだ。

法医学会異状死ガイドラインによると、

確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体

 http://www.jslm.jp/public/guidelines.html

となるが、これだと「異状死」は膨大な数になる。

「1ヶ月前の交通事故による傷害が悪化してそのまま亡くなった患者」

「腹痛を訴えて病院搬送されてきたが、診断つかずに亡くなった患者」

も異状死になる。

犯罪や医療事故と無関係でも、外因死だったり、原因不明の死であるなら、異状死だと法医学会は主張する。

異状死の範囲が広すぎるという批判に対して、いや、いいのだ、死因を確定させることが社会利益なのだと法医学会は考えている。

これに対して、外科学会や日本医師会から、「犯罪に関係する場合だけに限定」「医療事故の疑いがある場合だけに限定」という限定的異状死説が主張されている。

2015年までは、厚労省は法医学会よりの立場だったので、

「異状とは『病理学的異状』ではなく『法医学的異状』を指す」「『法医学的異状』については、日本法医学会が定めている『異状死ガイドライン』」等も参考にしてください」

とあった。

しかし、この記述は2015年から削除された。つまり、厚労省は法医学会ガイドラインを無条件で支持するわけではないということだ。

死亡診断書記入マニュアル 「法医学的異状」等は削除――医師法21条の「拡大解釈」是正へ | 東京保険医協会

また、広尾病院事件判決により、「検案とは死体表面を観察すること」という解釈ができて、「表面を見て異状がなければ届け出しなくてよい」という外表面異状説が定着しつつあったが、2月8日厚労省通知にはこう書いてある。

近年、「死体外表面に異常所見を認めない場合は、所轄警察署への届出が不要である」との解釈により、薬物中毒や熱中症による死亡等、外表面に異常所見を認めない死体について、所轄警察署への届出が適切になされないおそれがあるとの懸念が指摘されています。こうした状況を踏まえ、医師法第21条について、下記の通り周知することとしましたので、御了知の上、関係者、関係団体等に対し、その周知徹底を図るとともに、その運用に遺漏なきようお願い申し上げます。

医師が死体を検案するに当たっては、死体外表面に異常所見を認めない場合であっても、死体が発見されるに至ったいきさつ、死体発見場所、状況等諸般の事情を考慮し、異状を認める場合には、医師法第21条に基づき、所轄警察署に届け出ること。

 https://www.neurology-jp.org/news/pdf/news_20190220_01_01.pdf

死体外表面を観察して、異状がないだけでは警察届け出不要ではない、犯罪と無関係でも、異状死がありうるということで、厚労省の異状死定義は、法医学会ガイドライン説に戻ってしまったようだ。