亡霊を礼賛しても虚しいばかり

『アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり 1巻 (Kindle)』|感想・レビュー - 読書メーター

unsungとは
詩歌にうたわれ(てい)ない、詩歌によってほめたたえられない

50年前までは、医薬品は製薬会社から供給された状態では患者に使えなかった。

内服薬は、しばしば、大瓶に詰められた粉末や錠剤の形で売られていた。現在のようなPTPシートに入っていないのだ。

病院では、粉末を計量して取り分けたり、増量剤を混ぜて服用しやすい量にしたり、水やシロップに溶かしたり、粉末を打錠機に入れて錠剤に作り変えたり、カプセルに詰めたりしていた。錠剤も数を数えて患者に渡さねばならなかった。

注射薬も、投与前に、精製水や食塩水やブドウ糖液に溶かしたり、希釈したりしていた。現代のように、シリンジ(注射筒)にプレフィルされていないのだ。

昔は、点滴バッグなんて便利なものはなくて、ガラスびんとゴム管と針をつないで点滴セットとしていた。そこに病院内で作った点滴液を詰めて使うのだ。

外用薬は、白色ワセリンをベースにして、薬をそこに混入して、練って作るのである。今でも、薬局の調剤室で、独自の軟膏を作っていることがあるが、50年前はそれが例外ではなくて普通のことだった。大瓶から小さい容器に取り分けて患者にわたすこともあった。

こんな細々した作業を「調剤」と言う。昔は、調剤のスペシャリストとして、薬剤師が必要とされたのだ。

製剤技術の進歩により、調剤業務の大半はすでに消滅した。

薬剤師は、いわば、亡霊である。実体が存在しない形骸化した職種なのである。

その亡霊に教育をすることで、どうにか口を糊している薬科大学はもっとひどい。