全員を満足させる住居は用意できない

かつて、ホームレスとは、「貧困のために住居を失ったかわいそうな人々」だと思ってていた。

東京ホームレス事情 (徳間文庫)

90年代に書かれたこの本にはそう書いてあるし、他のレポートも、大半が「やむをえず野外生活をしている」という筆致になっている。

ところが、事実は違うのである。

福祉行政は、福祉施設を用意し、そこにホームレスを誘導している。彼らは、いつでも、福祉施設に入りたければ入れるのだ。しかし、入らない。入っても脱走する。

  • 施設は狭くて相部屋が多くて居づらい
  • 物が多くて捨てられない
  • タバコや酒をやめられない
  • 今の土地から移動したくない

こういう事情で、野外生活を「選択」してしまう。

政府は、厳しい予算事情の下で、なんとか雨露をしのげる程度の施設を提供しているのが、それをお気に召さない人が多いのだ。

人にはそれぞれ好みがあり、金のかかる生活をする自由もある。しかし、金がなければ、その自由は実現されない。

精神疾患患者や認知症患者も多いので、彼らを屋根と壁のある住居で生活させるのは、ふつうの人よりもずっとコストがかかる。

なお、ホームレス関連の書籍を読んでいると「新自由主義」「派遣切り」「小泉竹中」という決り文句が頻出する。複雑な社会問題を論ずるだけの知的体力がないと、人は、決り文句に依存する傾向がある。