保身

件の「自己インスリン注射」が嫌いな診療所長は、他の勤務医師に干渉して、片っ端からインスリン処方を辞めさせていたのだが、どうやらポリシーというより、保身があったように思う。

  1. インスリン注射で低血糖事故
  2. 内服薬の過剰投与で低血糖事故
  3. 内服薬の過少投与で高血糖緊急症

1と2は処方医の不注意が問責される可能性があるが、3で問責されることはないだろう。不十分な投薬であっても、「患者に生活指導をしていた」とカルテに書いておけばいいのだから。

他にも、「妊婦や小児や精神病患者は相手にせずに追い返せ」という指示もあった。 受付で、

産婦人科に行ってください」

「小児科に行ってください」

「精神科に行ってください」

とか言って、婉曲に断るのである。

膝関節へのヒアルロン酸注射は、周囲の整形外科がひどく混んでいる事情もあり、潜在需要が大きいのだが、スタッフは、在宅患者には注射しても外来患者には注射しなかった。設備的技術的な問題はない。診療所長が、万が一の事故のときの責任追及を恐れて何もしたくなかったのだろう。

医療事故や患者トラブルをおこすくらいなら、最初からリスキーな患者は相手にしないというのも経営判断の一つではある。しかし、そのクリニックは、外来患者数の減少で売上が低下し、困っていたのだ。血液検査を毎月やったぐらいでどうにかなるレベルではなかった。