ポリシーとエビデンス

EBM(Evidence Based Medicine)という言葉がある。

臨床研究成果を根拠として医療的判断をすることだ。

例:Xの治療をAという薬で行った場合とBという薬で行った場合とで比較したら、Aの方が効果が高かったので、Aで行う

私はPBM(Policy Based Medicine)という言葉を定義したい。

例:「何がなんでも延命させるべき」

困ったことに、経験豊富な医師ですら、両者の区別がついていない。

私は、HbA1c 10  随時血糖値400 という人に、外来で持続性インスリンを処方したことがある。娘が近所に住んでいて、毎日注射に来てくれるというので処方したのである。

ところが、院長はひどく不満なようだった。

インスリン低血糖になったらどうするのだ。高血糖の合併症が出るには10年かかるが、低血糖で死ぬのは一瞬だろう。だったら高血糖を放置した方がいい」

高血糖緊急症というのをご存じでしょうか」

「あなたに教育される筋合いはない」

というようなやりとりで、とりつくシマがなかった。

しかし、人は高血糖緊急症で死ぬのである。

先日も、内服薬のみで管理していた患者が、高血糖緊急症に陥って、病院搬送されて亡くなったのである。HbA1c 8 随時血糖300という、ギリギリの患者だった。施設の事情で、インスリン注射はできなかった。

私が正しくて、院長が間違っていたというのではない。ポリシーが違うだけなのである。ポリシーの問題ならそれでいいのだが、院長はエビデンスだと思い込んでいた。