カルテを公開されて困るのは患者

「医療IT」かけ声倒れ 診療データ共有、登録1%どまり :日本経済新聞

東京都内のある病院職員は「医療ミスや過剰治療の発覚を恐れ、外部に診療内容を見せたくない医師は多い」と医療の閉鎖性を指摘する。

 複数の場所でこういう意見を聞いたので反論したい。

カルテの共有を望まないのは医師じゃない。患者です。

他施設職員にカルテを見られて発覚する医療ミスなんてありません。カルテは病院職員なら誰でも見れるんだから、見られていい情報しか書いてない。病院職員の流動性は高く、法人内の秘密を守ることは難しい。

情報漏れを医師が恐れるのは、患者に不利益になるからです。患者にとっての不利益は医師にとっての不利益になるからでもある。

倫理的な問題ではなくて、もっと実際的な理由です。

たとえば、梅毒の治療をしたとして、それをカルテに書く。その情報が広く公開されたら、患者が不利益を被ることがある。患者は医師を秘密漏示罪で告発するのみならず、民事賠償訴訟を起こすでしょう。

事後的不利益だけではない。

カルテの情報が公開されるとわかっていたら、患者は不利益な情報を教えてくれなくなる。すると、診療に重大な障害が生じる。そんな病院に患者は来なくなる。

だから、電子カルテには当たり障りのない情報、行った処置や投薬や検査結果ぐらいしか書いてないことが多い。

患者家族の遺伝情報だとか、DVだとか、薬物使用歴だとか、風俗利用歴とか、そんな話はカルテに記載されず、医師のノートにだけ書かれる。

閲覧権限を細かく設定していけば、情報利用とプライバシとの折り合いがつくことがあるのかもしれないが、安楽死の議論すらできない日本で、そんな微妙な議論は無理でしょう。

当座の解決策は、投薬歴だけ共有することです。医薬品名だけでは投与目的などわからない。投薬歴が共通データベースで管理されていたら、向精神薬をハシゴ受診してたくさん集めることもできなくなるし、患者の記憶に頼って過去の服薬状況を聞き取る「職人芸」も要らなくなります。

お薬手帳は、患者の自由で記載してもしなくてもいい、ただのメモでしかなくて、使い物になりません。

レセプト情報から投薬歴だけを切り取って、診察室で見れるようにしたらいい。