大学院生の頃(1)

記憶がまだ鮮明であるうちに、記録しておきたい。

私は1994年4月に、東京大学大学院薬学系研究科に入学した。

所属ラボは「医薬分子設計学講座」だった。

計算化学の手法で、有用な医薬分子をデザインしようという意欲的な研究をする講座だった。

学部4年のときに、卒業研究で所属していた講座からそのまま持ち上がりにならなかったのは、やらされていた研究が、不斉合成反応の収率を、反応条件を微調整して向上させるというもので、いくらやっても不毛な感じがしたからだ。 

所属そうそう、私は指導教官から研究テーマを与えられた。そのはずだった。

ところが、そのテーマがまったく理解できない。何度聞いても、なんのことだかよくわからない。

どうやら、基礎的な知識が欠けているのかもしれないと思いはじめた矢先、私は帯状疱疹にかかり、2週間ラボを休んだ。

全快したころには、もう、研究する意欲はなくなっていた。

私がこの研究をやるには、まず、物理学や数学の基礎的学習をしなくてはならないだろう。たぶん、それだけで何年かかかる。医薬分子設計学講座にいても意味がない。

よって、大学院薬学系研究科は中退した方がいいように思えた。

科学者になるにしても、ならないにしても、意味のわからない研究作業をするのは無駄だと思ったのだ。