身体診察の大半は行われていない

研修医時代に、副業で健診業務をやっていたころ、自分の診察行為が不適切だったとして、受診者からクレームを受け、休職をさせられ、職場を追われたことがある。この事件では、様々なことが露呈した。

  • 身体診察はしなくてもしたことにしていい
    自分以外の医師は、診察せずに、カルテに身体診察所見を書き込んでいたらしい。その証拠に、自分が胸部の聴診をしたり、腋窩リンパ節や鼠径部リンパ節の有無を知るために触診してみたら、受診者のみならず、職域検診を受診した女性看護師たちからも、激しい抵抗を受けたのである。
    「今までの先生はそんなことはしなかった」
    しかし、過去のカルテには、「Heart no murmur」とか「鼠径部リンパ節を触れず」と堂々と書いてあるのだ。聴診も触診もせずにどうやって書いたのだろうか。
  • 患者は診察なんてしてほしくない
    患者は職場から検診を強制されて、渋々やってきている。単に「健診をした」という事実が必要なのであり、内容はどうでもいいのである。
  • 「検査によって、こういうことが起こりえます」とマニュアルどおりの説明をしたら(検査同意書に書いてあることを読み上げただけである)、被験者が恐怖感を憶えて、それ以上の検査ができなくなった。これも自分の責任にされて、上役から叱責された。説明せずに侵襲的検査をやらせて、何かが起きた場合は説明不足の責任を取ることが自分の職務だったらしい。
  •  このような情況では、クレームがつかないこと最優先なので、極端な話、ろくな診察も検査もせずに、話だけを聞いて、診断書を作るのが一番合理的だ。実際、それに近いことをやっている健診施設は多い。