3年目、後期研修医のときのことである。
担当患者は、脳梗塞2回、AMIを1回おこしていて、EF30%未満の末期心不全だった。
当然、不整脈もバリバリである。心臓が断末魔をおこしているのだから、どんな不整脈がおきても不思議はない。
夜勤看護師から、
「モニター心電図でVPCが頻発しているんですけど、どうしますか?」
とコールがあったので、
「そのままでいい」
と回答した。
オリベス注射して、不整脈がいったんおさまっても、オリベスによる心不全悪化で死ぬかもしれない。結局、どうやっても大して延命できないんだから、このままお看取りだらおうと思ったのだ。
ところが、朝になって出勤したら、4年目医師が激怒している。どうやら、私の患者にオリベス静注までしてくれて(幸い救命できた)、私が何もしなかったことを怒っているのである。
末期心不全のVPC(PVC)連発に対して、オリベス(リドカイン)を注射して救命できるかどうかは微妙なところだろう。心機能も腎機能もメチャクチャな情況で、血圧低下、拍出量低下をおこさない投与限度なんて設定しようがない。
要するに、自分は、「何かをして患者が死ぬ」よりも、「何もしないで患者が死ぬ」方がマシだと思ったから何もしなかったのだが、1年先輩としては、とにかく患者のベッドサイドに行くべきだというポリシーだったらしい。
まあ、かけつけてれば、亡くなった場合にも、遺族の心証は良くなるかもしれないし。
いや、それよりも、医療処置を積極的にやった方が自分のスキルが向上するからやった方がいいのかもしれない。