20台のころ、間欠的に精神科のお世話になっていた。
ある精神科クリニックで、自分を担当した精神科医との医療面接(いわゆる問診)は、精神科医がマジメにやってくれて、こちらも精神がテンパっていて、ガチンコ勝負だったのだが、不幸にも、何の成果も上がらなかった。
「このままのコースをたどると、博士号を取って、さらに海外留学をしなくてはならなくなるが、結局、どこに落ち着くのかわからない。着地点がわからなくて不安で仕方がない」
「その進路は、ごく一部の人だけがたどるコースです。情報を集めてみてはどうですか?」
「自分の周囲にはそういう人しかいません」
「いきなり行動するんじゃなくて、まず、情報を集めることからはじめましょう」
「どういう本を読んだらいいですか?」
「いや、そうじゃなくて、たとえば、ラボの仲間と飲みに行くとか」
「僕は人と一緒に飲食する習慣はありません」
「友達と話をするとか」
「友達なんていないですよ」
「お勉強ばかりしているので、視野が狭くなっているのじゃないですか?」
「いや、自分は専門外の本も娯楽本も相当読んでます」
「合コンでもしてみてはどうでしょう」
「?」(その頃は合コンという言葉の意味を知らなかった)
「人に嘘をつくのは辛いことです」
「人がいつも同じ態度で一貫しているわけがないでしょう。私だって、仕事をしているときと、子供の相手をしているときとでは態度が違っている。それを嘘をつくとは言わない」
「それはどちらかが本心で、どちらかが嘘の人格なんです」
「私はあなたに最初に会ったときに抱いた印象は、『なんて生意気なやつだろう』ということです。ここに何をしにきているんだろう」
「私は、不安な気分を治してもらいたくて来ていただけです」